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Q3 物損事故に関する評価損の考え方を教えてください

Q.自動車を運転中に追突され,車両に損傷ができました。この自動車は先月納車されたばかりのほぼ新品で,まだまだ中古車としても十分な値段がつくはずですが,交通事故に遭った車両ということでその価値が下がってしまったのではないか,心配です。そのように価値が下がってしまった分も,加害者に賠償を請求できますか?

 

 交通事故の被害に遭った方が,加害者に対して損害賠償を請求できるものは,大きく言って人身損害と物的損害(略して物損といいます)に分けられます。この記事では,物損のうち,とりわけ「評価損」という項目について,今から解説をします。

 物損とは,その名のとおり,人の身体や心に関する損害ではなく,物=自動車に関わる損害を意味します。そして,物損の中に含まれる損害項目としては,代表的なものは「車両の修理費」「修理中の代車費用」「営業に使用できなかったことに伴う休車損」などがありますが,前述した「評価損」もその1つです。

 では,評価損とは何かというと,「事故に遭った車両について,損傷箇所を修理することができたとしても,技術上の限界から当該車両の外観・機能に何らかの欠陥が生じたために,事故後に当該車両の市場価値が下落してしまったその差額分」を言います。また,それと別に,「技術上の限界から欠陥が生じてしまったわけではないが,事故歴を持った車両という扱いによって取引上のマイナス評価が生まれ,ひいて市場価値が下落してしまったその差額分」も,評価損に含むことができます。

 これらのいずれかの意味で,あなたの車両に市場価値の下落分が存在するならば,その差額分を評価損として損害賠償請求することは,理論的に可能です。しかし,評価損という損害項目は,あらゆる交通事故のケースで認容されている一般的なものかと言われれば,必ずしもそうとは言えません。

 なぜならば,例えば修理費の損害賠償請求をするときは,実際に修理業者に支払った修理費と同等額が損害にあたり,そのような損害が現実に発生しているということは第三者の目にも明らかといえますが,評価損の場合は,「市場価値の下落がそもそも発生しているといえるのか?」とか「発生しているとしても,それは金額的にいくらと算定できるのか?」という点などが,客観的且つ一義的に定まっているとはいえないからです。

 ですので,まずは保険会社と示談交渉をする場面でも,保険会社は簡単には評価損の計上を認めませんし,加害者を被告として訴訟を提起したとしても,被告は評価損の有無・金額について激しく争ってくることが多いです。結論的に,裁判所が評価損を認容してくれるケースでも,原告が元々請求していた金額のうち一部しか認容されなかった,ということも多いです。

 ただ,最近の裁判例は,昔に比べて評価損を緩やかに認容するようになったと言われています。結局評価損とは,事故の前後における市場価値の差が著しいと,客観的な立場からも肯定しやすいケースであれば認容される可能性が高いといえます。そこで,評価損の請求を相手方に認めさせるには,事故前の状態ではその車両に相当高額の中古車としての価格がついている,ということを立証できることが1つのポイントになります。

 その観点からすると,評価損が認められやすい傾向として,

 ①初度登録から経過している時間が短い(目安として5年程度以内)

 ②走行距離が少ない(目安として6万km程度以内)

 ③中古車市場での人気が高い車種である(いわゆるレッドブック等のデータが指標になります)

 ④元々その車両の購入価格が高い(外車,高級車など)

 ⑤損傷の部位が,車両の外観・機能に重大な影響を与える重要部位である

という要素をピックアップできます。

 あなたの車両が,上記の要素に複数あてはまるならば,評価損の項目も相手方に賠償請求することを検討してみると良いでしょう。もしくは,上記の要素にあてはまらない場合でも,個別の特殊事情によっては評価損を請求できることももちろんあり得ます。ただ,前述のとおり保険会社の対応は,一般的に評価損を容易に認めない対応なので,もしあなたとして評価損をしっかり請求したいとお考えであれば,弁護士に相談・依頼することをお勧めします。

 最後に裁判例では,かなり限界的な事案として,大阪地裁平成7年3月16日判決(交民集28−2−412)があり,この事案では,初度登録から4年数ヶ月経過したクラウンワゴンについて,修理費額の3割を評価損として認定された,というものがあります。

Q4 役員報酬を得ている兼業主婦の休業損害について教えてください

Q.私は会社の取締役に就任しているのですが,交通事故で怪我をして治療のために仕事を休みました。休業損害はもらえるのでしょうか?

 

交通事故で怪我をして,治療のために仕事を休むなどして収入減があった場合,その収入減も交通事故による損害になり得ます。この損害を休業損害と言います。

 休業損害の計算方法は,基礎収入(交通事故前の収入金額)×休業期間になります。

  基礎収入は,給与所得者であれば,事故前の給与額を基に計算します。

 専業主婦については,現実の収入というものはありませんが,家事労働の対価が収入であると評価することで,休業損害を請求することが可能です。

 そして,専業主婦の基礎収入は,厚生労働省が毎年実施している統計調査結果である「賃金センサス」の女性労働者の平均賃金を基に計算します。

 兼業主婦の場合は,実収入額と賃金センサス女性学歴計全年齢平均年収額を比較して,高い金額を基準とすることになっています。

では,会社の取締役に就任していて役員報酬を得ていながら,主婦として家事労働に従事している兼業主婦の場合はどうでしょうか。

最近の裁判例では,この点について判断した例がいくつかあります。

1 東京地裁平成24年10月29日判決

 事故前年度に年間180万円,事故発生の年度に330万円の役員報酬を得ていた兼業主婦の休業損害について,役員報酬より高額であった賃金センサス女性学歴計全年齢を基礎収入として計算した。

2 東京地裁平成26年4月15日判決

 年間360万円の役員報酬を得ていた兼業主婦の休業損害について,役員報酬より高額であった賃金センサス女性学歴計全年齢を基礎収入として計算した。

3 大阪地裁平成30年1月15日判決

 年間180万円の役員報酬を得ていた兼業主婦の休業損害について,役員報酬より高額であった賃金センサス女性学歴計全年齢を基礎収入として計算した。

 これらの裁判例から分かるように,役員報酬を得ていた兼業主婦についても,給与取得者の兼業主婦と同じく,事故前の収入と賃金センサス女性学歴計全年齢平均年収額を比較して,高い金額を基準として計算していることが分かります。

Q5 交通事故による怪我の治療に際して健康保険を使えるか

Q.交通事故による怪我の治療では、健康保険は使えないというのは本当でしょうか。

 

 結論から言いますと、「交通事故による怪我の治療では、健康保険は使えない。」というのは誤りです。健康保険を使って治療を受けることは、可能です。

 にもかかわらず、実際の医療現場では、このように患者に説明する病院は意外とあるようです。その背景には、その説明をした人が単純に誤解しているだけのこともあるでしょうが、誤りであることを認識しながらわざとこういう説明をしていることもあるのかもしれません。自由診療(健康保険を使わない診療のことをこう呼びます。)の方が、病院にとってはメリットが大きいのかもしれませんが、その話は今回は割愛します。

 ちなみに、自由診療だと、治療費は全額自己負担になり、健康保険だと、治療費の3割を自己負担(一定の高齢者だとより低い割合で済むこともあり得ます。)することになります。

 ただ、実際多くの交通事故のケースでは、健康保険を使えるかどうかが問題になることはありませんし、患者もその点を気にすることはありません。なぜなら、加害者が通常契約している任意保険の対人賠償特約の上限金額の枠内(これは無制限という方が多いでしょう。)で、その任意保険会社が病院に対して直接治療費を支払ってくれる形になり、患者自身に請求が行くことはないからです。

 しかし、世の中には任意保険を契約していないで自動車を運転し、結果的に交通事故の加害者になってしまう人もいます。その場合は、任意保険会社が病院に対して直接治療費を支払うという形式には当然なりません。それゆえ、加害者か被害者かのいずれかが、病院の窓口で現実に治療費を支払うことをしなければなりません。この場面になって初めて、健康保険を使った方がいいかどうか、という話になります。つまり、自由診療だと、窓口で請求される金額がけっこう高額になることがあり、たとえ一時的な立て替え払いだとしても、負担がきつくなってしまうからです。その観点では、当然、より低い金額で済む健康保険を使った方が良いでしょう。

 健康保険を使う場合に、必要な手続があります。それは、全国健康保険協会(いわゆる協会けんぽ)又は健康保険組合のどちらかに、「第三者行為による傷病届」を提出することです。この点を忘れずにご注意ください。

 そして、上記のように任意保険契約のない加害者の場合、被害者が被った損害をきちんと賠償してもらえるのか、という問題も考えなければなりません。我が国では、交通事故の被害者救済のための最低限度の仕組みとして、自賠責保険の加入が法令で義務づけられていますので、自賠責保険の定めに基づく保険金の支払いは最低限受けられます。もっとも、この自賠責保険すら加入しないで自動車に乗っている人も0ではないので、その場合の救済はどうやったら受けられるかという話もありますが、それはまた別の機会にいたします。

さて、この自賠責保険では、傷害事故のケースについて保険金支払いの上限は120万円と定められています。

 被害者が健康保険を使って病院で治療を受けて、自己負担分の3割を支払ったとき、この治療費の3割の自己負担分は後日自賠責保険の被害者請求手続によって、120万円の枠内で支払いを受けることができます(ただし、その治療が真に必要かつ相当な治療といえるかどうかは自賠責保険の認定機関による審査があります。)。また、自賠責保険でカバーされる損害は、治療費の他に休業損害や慰謝料等も含まれるので、これらも合わせて最大120万円まで支払いを受けられる可能性があります。

 他方で、健康保険に基づく保険給付を行った全国健康保険協会又は健康保険組合は、その保険給付を行った範囲内で、被害者の有する加害者に対する損害賠償請求権又は自賠責保険会社に対する保険金請求権を代位取得する、即ち被害者に代わって損害賠償又は保険金の支払いを請求することができると、法律で定められています。これは、被害者が健康保険給付も損害賠償(又は自賠責保険金)も二重にもらえる、という形を防止するためです。

 とすれば、被害者が受けた損害の賠償のための自賠責保険に対する請求額と、健康保険の給付を行った者の代位取得に基づく自賠責保険に対する請求額が、足して120万円の範囲を超える場合は、これらの2つの請求額はどのように調整されるのか、という問題が発生します。

 この点について、参考になる最高裁判所の判決があります(平成20年2月19日付け)。この判決は、老人保険法(当時)に基づく医療給付に関する代位請求と、被害者の自賠責保険への請求とをどう調整するかという点につき、「被害者の自賠責保険への請求が優先される」と判断しました。つまり、被害者の方が先に120万円の枠内で支払ってもらえる、という結論です。この判断は、現在健康保険の給付の世界でも取り入れられており、健康保険の給付に基づく代位請求よりも被害者の自賠責保険への請求が優先される、という扱いがされています。

 したがって、加害者の任意保険がないために、その補償を受けられない被害者の方は、まず健康保険を使って自己負担を低く抑え、自ら支払った自己負担分を後で自賠責保険に請求すれば、最大120万円の枠内で還付してもらえます。ただし、120万円を超える治療費が発生していたり、あるいは治療費以外の損害項目(休業損害や慰謝料等)も加味すると120万円を超えている、という場合には、その超過部分を直接加害者に損害賠償請求するほかなく、その加害者に十分な資力があるかどうかによって、被害者の救済が実現されるかどうか、という話になります。

 以上のとおり、加害者の任意保険がないというイレギュラーな事件で、被害者にとってより十分な救済が得られるようにするには、弁護士のサポートを受けることをお勧めします。

Q6 交通事故による怪我の治療に際して労災保険を使えるか

Q.会社から自宅に帰る途中で交通事故に遭いました。この場合、労災保険を使うことはできるのでしょうか。

 

 結論として、業務遂行中又は通勤中に発生した交通事故で受けた損害の補償で、労災保険を使うことは可能です。ただし、いくつか条件があります。

 第一に、人身に対する損害(以下「人損」といいます。)が発生していることです。車両が壊れた等の物的損害には、労災保険による補償はありません。

 第二に、その交通事故が「業務災害」又は「通勤災害」に該当することです。仮に、交通事故が発生したのが会社から自宅に帰る途中の出来事だったとしても、会社から自宅を結ぶ合理的な経路から逸脱したルートで起こったケースであれば(例えば、友人とカラオケ屋に寄ったケース)、「通勤災害」として認定されないこともあります。

 第三に、所轄の労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出することです。ただこの手続は、あなたが個人としてやるよりも、あなたの会社の労災を担当する部署(人事課や総務課など)を通してやるという形になっていることも多いでしょう。

 ここで、労災保険を使うのは、先に自賠責保険の給付を受けてからでなければならない、と言われた人もいるかもしれません。これは確かに、自賠責保険の給付を労災保険よりも先行させるべしという通達が存在するからだと考えられますが、しかしこの原則は絶対的に守らなければならないものではなく、事故に遭った被害者の意思で先に労災保険の給付をもらいたいという場合には、その意思が尊重されます。ですので、労災保険を先に手続することも可能です。

 では、労災保険と自賠責保険は、どちらを先に手続した方がメリットが大きいのか、という疑問が湧きますが、実はこの問題はケースバイケースで答が異なり、誰でも一律に同じ答があてはまるわけではありません。

 簡単に、労災保険と自賠責保険の違いをいくつか述べておくと、①労災保険では、休業損害の一部や慰謝料などは補償外とされる(ただし自賠責保険でも休業損害については金額の上限がある)、②治療費の対象は労災保険よりも自賠責保険の方が広範囲である、③自賠責保険では、被害者の過失が大きいときは過失割合の減額がされる、④傷害事故に対する自賠責保険の給付限度は120万円とされているが、労災保険では限度はない、などの点が挙げられます。

 ですので、その点で迷った人は、弁護士に相談することをお勧めします。当事務所では、豊富な経験に基づき、依頼者ごとに最適な解決案を提案しております。

Q7 交通事故による車両損害に対する修理費を損害賠償請求できるか

Q.交通事故に遭って車両が損傷しました。その修理のために,知り合いの修理工場へ車両を持ち込んで,修理費はこれくらいという見積もりをもらいました。このまま修理をしてもらって,かかった修理費を加害者に請求することで問題ないでしょうか。「協定」という言葉を聞いたことがあるのですが,どういう意味でしょうか。

 

 交通事故に伴い発生した車両損傷に対する修理費は,基本的に事故と因果関係のある損害として,損害賠償請求の中に含まれます。

 しかし,事故と無関係の車両損傷(以前から存在したキズやへこみ等)をついでに修理したり,あるいは原状回復の水準を超えて過剰な処理を施してもらったりしたことに対する費用は,損害の中に認められません。即ち,事故より以前の状態に戻すために,必要かつ適切な修理に要した費用ならば加害者は賠償責任を負いますが,それ以外のものは賠償責任を負いません。

 そのため,被害者が独自に修理工場と折衝をして,修理費を支払っても,加害者の目から見れば,「その費用は本当に必要かつ適切な修理に対する費用として適正な金額なのか?」という疑いを感じるかもしれません。まして,その修理工場が,被害者と個人的な知り合いだったという事情などが付け加われば,加害者はますます疑念を募らせるでしょう。

 そうすると,示談交渉においても,加害者はその修理費に納得せず,任意に示談に応じてもらえないこととなり,裁判所に訴訟を提起しなければならなくなります。そして,訴訟の中でも,加害者がその修理費は適正ではないと争ってきて,最終的に裁判所もかかった修理費全額を適正なものとして認定してくれなかったとしたら,結局加害者からの賠償を一部得られないことになり,被害者自身の持ちだしという結末になります。

 そういう結末を避けるためにも,加害者に何も相談せずに独断で修理費を支払うことは避けた方がよいでしょう。また,信頼のおける修理工場を選択することも必要です。

 加害者が,任意自動車保険に加入していて,その保険会社が損害賠償の支払いの対応をしてくれるという場合は,なおさらそのことが当てはまります。質問の中にある「協定」という制度は,正にそういう事態を防ぐために保険会社の運用の中で定められた制度です。

 つまり,加害者側の保険会社は,修理費に見合う金額を保険金として支払いをする前に,必ず「今回の事故で発生した損傷はどの部分か,それを原状回復させるにはおよそいくらくらいの費用がかかるか」などの点を,あらかじめ車両本体を現認した後でチェックします。そして,被害者側の保険会社や修理工場と協議・調整して,本件で必要かつ適切と認められる修理の範囲を確定し,それに対する適正な費用がいくらかということを精査して,保険会社同士及び修理工場ですり合わせをします。こうして,すり合わせがまとまった状態を「協定を結ぶ」と言うのです。

 協定を結んでいなければ,加害者側保険会社は修理費を支払ってくれませんので,被害者が独自に修理工場と修理契約を結ぶことは避けた方がよいでしょう。

Q8 交通事故による車両修理のために発生した代車費用を損害賠償請求できるか

Q.交通事故に遭って車両が損傷しました。その修理のために修理工場へ車両を預けることになり,その期間別の車両をレンタルすることにしました。その修理が完了して私の下に車両が返ってくるまでの代車費用は,当然に全て加害者に請求できるのでしょうか。

 

 交通事故に伴い発生した車両損傷を修理するため,修理工場へ一定期間車両を預けることになり,その期間別車両をレンタルしたために発生した代車費用は,基本的に事故と因果関係のある損害として,損害賠償請求の中に含まれます。ただし,あらゆる交通事故のケースでも当然に加害者に請求できるものかと言われると,必ずしもそうとは言い切れません。

 代車費用が損害賠償の中に含まれるには,①代車を用意することに十分な必要性があり,②且つ実際に使用した代車のグレードや期間が相当な範囲に収まっていること,が満たされなければなりません。以下で,もう少し具体的に説明いたします。

 まず①についてですが,交通事故に遭った被害者にとって,別の車両を用意しなければならない必要性が存在しなくてはなりません。その意味で,例えば交通事故に遭ったのが仕事で用いる事業用車両であれば,仕事を遂行するために別の車両を用意しなければならない必要性は比較的すんなり肯定できるでしょう。逆に,交通事故に遭ったのは自家用目的の車両だったという場合,いろいろな見方があり得ます。自家用車だとしても,会社への通勤へ毎日使っているという事情があれば,やはり別の車両を用意しなければならない必要性は比較的すんなり肯定されると思われますが,他方で休日の外出でしか使っていなかった(しかもその頻度は非常に少ない)という事情なのであれば,必ずしも別の車両を用意しなければならないとは言い切れないでしょう。結局は,ケースバイケースというしかないのですが,客観的に見て必要性が乏しいと思われるようなケースであれば,加害者の加入している任意保険の会社も代車費用の賠償を拒絶することがあります。そこで折り合えないとしたら,民事訴訟を提起して裁判所に判断してもらうことになりますが,その際もいかに代車の必要性が強いかを,裁判所にも理解してもらえるように説得できる工夫が必要になります。

 次に②については,代車を使用する期間や車種のグレードが相当な範囲に収まっているか否かで,争いになることがあります。

 期間については,基本的に被害車両を修理工場に預けて修理されている期間の代車費用という発想が原点になります。被害車両は既に手元に戻っているのに,なお代車を使用し続けたとしたら,それ以降の代車費用は損害賠償に含まれないのは,当然のことです。また,その逆の話で,修理が実際に始まる前だが修理工場に預けている期間の代車費用については,損害賠償に含まれる可能性も含まれない可能性も両方あり得ます。

 つまり,修理工場が実際に被害車両の修理に着手するには,加害者側の任意保険の会社と修理内容について協定を結んでいることが必要になるのですが,ケースによってはこの協定締結に至るまで多少の時間がかかることがあるからです。なぜそのように時間がかかるのかと言えば,単純に損傷箇所が多数かつ複雑であるため調査に時間を要することもあるし,保険会社の主張する損傷箇所と被害者の主張する損傷箇所が不一致のために交渉に時間を要することもあるし,被害者が社会通念上明らかに過大かつ不当な処置を被害車両に施すよう保険会社に要求しているために交渉に時間を要することもあります。結局は,この点もやはりケースバイケースであり,一概に断定することはできないのですが,代車を使用する期間の相当性につき心配があるという方は,弁護士にあらかじめ相談することをお勧めします。

 そして,代車として使用する車両のグレードについては,基本的に同種同等以下のグレードという発想が原点になります。被害にあったのは軽自動車なのに,代車として用意したのは外国産の高級車というのでは,明らかに代車のグレードの相当性が欠けます。

 注意が必要なのは,被害にあった車両が外国産の高級車であれば,同種同等のグレードの外国産高級車を代車として使用できる,というわけではないことです。明確な基準があるわけではないですが,外国産の高級車の代車として許容されるグレードは,国産の高級車まで,という傾向があると言われています。ただこの点も,個別の事情によっては,代車として同種同等グレードの外国産高級車を用意しなければならない必然性が強く存在するということもあり得るでしょう。そういう個別事情が客観的に認定できるのであれば,裁判所も外国産高級車の代車費用を認めてくれることもあり得ます。

 以上のとおり,一口に代車費用と言っても,どこまでの範囲のどこまでの金額が損害賠償として許容されるかは,個々の事案ごとの事情によって大きく異なります。ですので,代車費用を加害者に対して請求したいとお考えの被害者の方は,当事務所までお気軽にご相談いただければ幸いです。

Q9 交通事故による損害賠償額の算定に際して,被害者の体質や体型等を考慮すべきか

Q.私は70歳代の高齢者ですが,先日交通事故に遭って骨折し,病院で治療を受けています。その治療費やその他慰謝料などを加害者に賠償してもらいたいのですが,加害者の言い分は「被害者が高齢で骨がもともと弱くなっていたから,軽微な事故なのに骨折になった。損害賠償額の算定にあたっては,そのことを考慮して実際に発生した治療費などから割り引いて考えないと,不公平である。」と言っているそうです。そのように,被害者の身体に存在する体質や体型などを理由にして損害賠償額が割り引かれることはあるのでしょうか。

 

 ご質問への回答として結論を先に述べると,被害者の身体に存在する体質や体型などが原因となって,通常想定される損害よりも大きな損害が発生した場合に,その損害賠償額が割り引かれるということは,全くないわけではありません。このような減額がされることを法律用語で「素因減額」といいます。しかし,素因減額はそれほど簡単に認められるものではありません。

 そもそも,交通事故に限らず損害賠償責任が問題になる事案一般では,「過失相殺」という概念があります。これは,被害者が損害を受けた過程において,被害者の方にも何かしら落ち度があった場合には,その被害者の過失と加害者の過失とを数字の割合に引き直して,被害者の過失に見合う損害額を減額する,という取扱いです。交通事故の例ですと,被害者の方にも一時停止をしなかった過失とか,前方不注意の過失があるなどを理由にして,被害者の過失が1割あるからその1割分減額する,などのように処理されます。この過失相殺は,交通事故の事案ではよくある話です(もちろん加害者が10割悪くて被害者の落ち度は0という事案もありますが。)。

 我が国の最高裁判所は,この過失相殺の規程を類推適用して,被害者の素因を理由にした減額があり得ることを認めています。その先駆けとなった判例が,昭和63年4月21日の最高裁判決ですが,その中で「その損害が加害行為のみによって通常発生する程度,範囲を超えるものであって,かつ,その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは,損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし,裁判所は,損害賠償の額を定めるにあたり,民法722条2項の過失相殺の規程を類推適用して,その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる」と述べました。なお,この文言から明らかなとおり,この最高裁判例では肉体的な素因よりも心因的な素因(通常人とは異なる特異な性格や気質など)に基づく減額があるかないかが争われた事案でした。最高裁は,肉体的な素因と心因的な素因の両方による素因減額の可能性を肯定しています。また,被害者が交通事故以前より何らかの既往症があったとか,現在も治療中の疾患があるという場合にも,素因減額の可能性があります。

 ただし,肉体的な素因と心因的な素因の話は,一緒くたには論じられませんので,本日の記事は肉体的な素因の話の,とりわけ疾患・既往症を除外した体質や体型の話のみに限定して述べることとし,その他の素因の話は別の日に改めることとします。

 話が少し逸れたので戻しますと,最高裁の別の判例では,平均的体格よりも首が長くて多少の頸椎の不安定症があるという身体的特徴を有した被害者が,事故によってむち打ち症を患ったという事案において,原審は素因減額を4割認めるという結論だったのに対し,最高裁は素因減額を認めないという結論を出しました。その判決文の中で「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しない限り,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし,人の体格ないし体質は,すべての人が均一同質なものということはできないものであり,極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が,転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別,その程度に至らない身体的特徴は,個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。」と述べています。

 ここから読み取れることは,被害者に特殊な身体的特徴がある場合でも,①それは疾患ではなく,かつ②それは通常人の平均値から著しくかけ離れており,日常生活でも通常人より慎重な行動をとるべきであると言えるケースではない,のであれば,個々人の個体差の範囲内のものとして許容される,という考え方です。

 ただし,その身体的特徴が疾患であるか否か,または日常生活でもより慎重な行動をとるべきであると言えるケースか否かの判断は,微妙であることもあります。ですので,加害者の方から素因減額を主張された場合には,弁護士に相談することをお勧めします。

 最後に,ご質問の事案では,高齢化のために骨が弱くなっていたことを素因減額の理由として主張されているということですが,高齢化のために骨が弱くなるという現象はほぼ全ての人間に当てはまる普遍的現象と言えるので,上記①②の基準に照らして,裁判所が素因減額を肯定することはないと考えられます。

Q10 自転車による交通事故でも損害賠償を請求できるか

Q.私は先日,道を歩行中に自転車に衝突されるという交通事故に遭いました。その際,怪我も負ったため,病院で治療を受けています。自動車の交通事故の被害者の場合は,その治療費やその他慰謝料などを加害者に賠償してもらえると聞いたのですが,自転車の交通事故でも同じように損害賠償を請求できるのでしょうか。

 

 ご質問への回答として結論を先に述べると,できます。

 そもそも,自動車による交通事故に限らず,我が国の民法には「不法行為」(民法709条)という概念があって,この不法行為に該当するものであれば,相手方に損害賠償責任が発生します。したがって,自転車による交通事故でも,不法行為に該当する場合には損害賠償を請求できます。

 しかし,相手方に請求できるという話と,現実に相手方からその支払いを受けられるという話は,同列には論じられません。自転車事故の場合,後者の点において,自動車事故よりも難しい側面がありますので,以下ではこの点に絞って解説をいたします。

 自動車の運転に関しては,保険制度が充実しています。まず,自動車を保有する人が必ず加入することが義務づけられている自賠責保険があります。さらに,法律上の義務はないですが,自賠責保険を補完するために自発的に任意保険に加入しているという人もたくさんいます。なぜ自動車は,これほど保険制度が充実しているのでしょうか。

 具体的に事例を挙げると,ある人が交通事故を起こして他人を怪我させてしまい,その被害者への損害賠償すべき金額が1,000万円だったと仮定します。しかし,加害者には預貯金や不動産などの財産は全くなく,1,000万円なんてとても支払えないということは,世の中にはよくあります。こういう場合は,被害者としてはとても気の毒ですが,損害賠償請求をあきらめるか,あるいは毎月少しずつの金額を長期分割で支払ってもらうのを我慢するしかない,ということになります。しかし,自動車が世の中に大量に普及して,交通事故の発生件数も増加したので,このように泣き寝入りせざるを得ない被害者を適切に救済する仕組みを用意しておくべきだという考えから,自賠責保険制度が設けられました。

 自賠責保険があることによって,加害者に全く財産がない場合でも,最低限度の補償は自賠責保険から支払われることから,被害者としても完全な泣き寝入りはしなくて済むようになっています。さらに,自賠責保険では,被害者の被った損害を100%まで補償してもらえないこともあることから,その不足部分を補うための任意保険を保険会社が売り出しています。

 翻って自転車事故について考えると,まず自転車に乗る人が誰しも必ず加入を義務づけられている強制保険制度は現在存在しません。したがって,自動車事故の場合の自賠責保険のように,最低限度の補償は確保されている,とは残念ながら言えません。

最近は,保険会社が自転車事故をカバーする任意保険を多数売り出しておりますが,これに加入している人はまだまだ少ないと思われます。

結局,自転車事故の被害者になったとしても,加害者の方が何かしらの任意保険に加入しているという可能性は低く,保険がないのであれば後は加害者自身がどれだけ財産を持っているか否かで,あなたの損害賠償が現実に支払ってもらえるかどうかが決まるのです。そういう意味で,自転車事故は自動車事故よりも難しい側面があるのです。

 しかし,自転車であっても状況によっては被害者に大怪我を負わせてしまう可能性はあり,そうなると必然的に損害賠償額も高額になります。現に,裁判になった事例で,9,500万円超の損害賠償義務を命じられた判決もあります(神戸地裁判決平成25年7月4日)。このように,大きな被害を受けたのに,金銭的な補償が全然受けられないという悲惨な結果を回避するには,早期に弁護士に相談することをお勧めします。

 最後に,自転車を運転していた直接の加害者は,全然財産がない人でこの人からは損害賠償を支払ってもらうことはできないという場合でも,すぐに諦めるのではなくて,他の手段が使える可能性もあります。例えば,直接の加害者が,その自転車事故発生の際は勤務時間で業務遂行中だった(例えば荷物の配達中など)という事実があれば,その業務を命じていた会社にも損害賠償責任が発生する可能性があります。他にも,直接の加害者が未成年の子ども又は高齢のお年寄りだったという事実があれば,その子ども又はお年寄りを監督すべき保護者的立場の人にも損害賠償責任が発生する可能性があります。

 そのように,法律上直接の加害者以外にも損害賠償責任が発生し,そこからいくらかでも損害賠償を支払ってもらえることもあり得ますので,自転車による交通事故の被害に遭った方は,お気軽に当事務所までご相談ください。

Q11 個人事業主の休業損害の考え方

Q.私は大工で,個人事業主として仕事をしています。先日,交通事故に遭って怪我をし,数ヶ月間全く仕事ができませんでした。個人事業主でも,休業損害を相手方に請求できるのでしょうか。また,休業期間中も,リース契約している機械のリース料は支払わなければならなかったので,私が支払っていますが,この分の費用も相手方に請求できないでしょうか。

 

 ご質問への回答として結論を先に述べると,個人事業主でも給与所得者と同様に休業損害を相手方に請求できます。また,休業中にも支出を余儀なくされた経費は,やはり相手方に請求できます。以下で詳しく説明いたします。

 そもそも休業損害は,交通事故に起因する身体的・精神的な不具合のため,一定の時間仕事をできないようになり(完全に休むわけではなく,一応仕事はしているが,以前よりも著しく作業能率が落ちている状況等も含みます。),そのために収入の減少が発生する場合に,当該減収分を補償する意味合いのものです。したがって,個人事業主でも,実際に収入が減少しているのでなければ休業損害は認められません。

 休業損害の発生が事実として認められるとして,では具体的にいくらの金額を相手方に請求できるかという考え方については,最も直接的には「休業期間中に収入が減少した分」とするのが一つのやり方です。その他に,より簡易なやり方として,交通事故以前の収入額を基礎収入として1日当りの単価を算出し,その単価に休業期間の日数を掛けるというやり方もあります。裁判例では,いずれのやり方も用いられています。

 後者のやり方を用いる場合,交通事故以前の基礎収入はいくらで考えるべきかという問題がありますが,これは原則的に「直近の確定申告で申告した所得の額」となります(青色申告の特別控除額を控除する前の金額)。人によっては,年によって変動の波が非常に大きいということもありますが,そういう場合には直近の単年だけで見るのではなく,過去数年分の平均値をとった方が適切なこともあります。

 また,直近の確定申告の所得額よりも,交通事故当時又は交通事故以降の所得が大幅に増えていたはずだという事情がある方もいます。そういう場合は,直近の確定申告の所得額に一定の上積みをした金額を基礎収入とすることも認められる可能性があります。ただし,本当に所得が大幅に増えていたはずだという事情を,相当程度確実性のある根拠・資料で証明する必要があります。単に,口約束で大口取引を受注できる予定だったという事情だけで,簡単に認められるものではありません。

 また,人によっては,確定申告を全くやっていなかったので具体的に所得額を証明できないが,実際には一定の所得があるという方もいます。似たような話で,一応確定申告はしているけれども,申告していた金額よりも実際は多額の所得があるとして,その所得を基礎収入として扱うよう主張する,あるいは申告している経費は実際よりも多いとして(経費の金額が下がれば差引きした結果の所得の金額は増えます。),より少ない経費に基づく所得を基礎収入として扱うよう主張するという方もいます。

 これらの事情がある場合,いわゆる確定申告外所得そのものが一律に排斥されるわけではなく,個別具体的な事情のもとで一定の確定申告外所得が肯定されることもあります。しかしながら,納税義務という場面ではより少ない所得を主張しながら,他方で損害賠償請求という場面ではより多額の所得を主張するというのは,明らかに矛盾挙動ですから,自ずと裁判所の見方も厳しくなります。したがって,確定申告外所得が本当に正しい数字であることを,相当程度確実性のある根拠・資料で証明する必要があり,そのハードルは相当高いといえます。

 最後に,休業期間中であってもやむを得ない事情で支出を止められない固定費用は,全く無駄なお金を支払わされているわけですから,相手方に休業損害として請求できます。主な具体例としては,設問に出ているリース料や,事務所賃貸のための家賃,事業のために雇用している従業員の給与などがあり得ます。

 ただし,これらの固定費用の支出が休業期間中でも止められないということにつき,やむを得ない事情がなければならず,かつこれらの固定費用の支出を維持することが近い将来の仕事再開のために必要であるという事情がなければなりません。契約を解約してその支出をストップすることが容易であったのに,うっかりミスで支出を続けてしまっていたというようなケースでは,もちろん認められません。

 以上のとおり,個人事業主の休業損害の請求にあたっては,そもそも個人事業主という特性上毎月決まり切った売上が約束されているわけではなく,様々な要素に基づき変動があるのが常であることから,いくらの金額を損害額として計上すべきか,給与所得者に比べて難しい側面があります。ですので,個人事業主の方が交通事故に遭われた場合には,弁護士に相談することをお勧めします。当事務所まで,お気軽にご連絡をください。

Q12 企業損害の賠償を請求できるか

Q.私は以前から薬剤師として薬局を営んでいましたが,数年前に法人化して,私が代表取締役を務める会社で現在は薬局を経営している形です。先日,私は交通事故に遭い,その怪我のせいで数箇月間入院することになり,入院期間中は薬局を休業せざるを得なくなりました。休業中に得られなかった売上減少分は,加害者に賠償してもらえるのでしょうか。

 

 設問のような事案の相談は意外に多くあり,このように交通事故に起因して企業に生じた損害を俗に「企業損害」と呼びます。企業損害としては,設問のように得られるはずの売上が損なわれたというものだけではなく,逆に企業の事業を維持継続するために臨時的に発生した余分なコスト(外注費用,臨時雇用人件費など)もあり,いろいろなケースが考えられます。

 かかる企業損害を,交通事故の加害者に賠償請求できるかという点については,原則的に「できない」という回答になります。なぜなら,交通事故の被害に遭ったのはあくまでも「個人」であり,この「個人」に発生した損害のうち,当該交通事故と相当因果関係のあるものについては加害者が賠償責任を負うのですが,「法人」はあくまでも法律上「個人」とは別の権利帰属主体として扱われるため,「法人」の損害は「個人」の損害とは峻別されるからです。

 しかしながら,ごく限られたケースでは,例外的に賠償請求が認められることもあります。その裁判例のうち,リーディング・ケースとされているのが,最高裁の昭和43年11月15日判決です。この判決の重要部分を,少し長いですがそのまま抜粋いたします。

 「Aは,もと個人で●●薬局(筆者が修正)という商号のもとに薬種業を営んでいたのを,いつたん合資会社組織に改めた後これを解散し,その後ふたたび個人で●●(筆者が修正)という商号のもとに営業を続けたが,納税上個人企業による経営は不利であるということから,昭和三三年一〇月一日有限会社形態の被上告会社を設立し,以後これを経営したものであるが,社員はAとその妻Bの両名だけで,Aが唯一の取締役であると同時に,法律上当然に被上告会社を代表する取締役であつて,Bは名目上の社員であるにとどまり,取締役ではなく,被上告会社にはA以外に薬剤師はおらず,被上告会社は,いわば形式上有限会社という法形態をとつたにとどまる,実質上A個人の営業であつて,Aを離れて被上告会社の存続は考えることができず,被上告会社にとつて,同人は余人をもつて代えることのできない不可欠の存在である,というのである。

  すなわち,これを約言すれば,被上告会社は法人とは名ばかりの,俗にいう個人会社であり,その実権は従前同様A個人に集中して,同人には被上告会社の機関としての代替性がなく,経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであつて,かかる原審認定の事実関係のもとにおいては,原審が,上告人のAに対する加害行為と同人の受傷による被上告会社の利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め,形式上間接の被害者たる被上告会社の本訴請求を認容しうべきものとした判断は,正当である。」

 この判決は,結論として企業損害の賠償請求を肯定しており,そのための必要的要素として,①代表者への実権集中,②代表者の非代替性,③会社と代表者の経済的一体性,を充足するべきことを指摘しています。そしてこの最高裁判決以降は,下級審判決(地裁・高裁の裁判官の判決のこと)も企業損害の賠償請求を肯定するか否定するかにつき,上記①〜③の枠組に基づき,判断するようになりました。

 そこで,上記①〜③の要素について,説明いたします。

 まず前提として,被害に遭った個人が会社の「代表者」でなければ,企業損害を認めてもらうのは極めて困難と考えられます。その個人が「代表者」ではなく,「役員」や「従業員」に過ぎないとしたら,たとえその個人が会社にとって必要欠くべからざる重要な人材だったとしても,ほとんどの裁判例では企業損害を否定しています。

 次に①②の要素を検討するには,例えば,代表者が実際に行っている業務内容,代表者が握っている権限の内容や大きさ,その企業の金額的規模(資本金や売上高等)及び人的規模(役員の数や従業員の数等)に着目することが必要です。

 次に③の要素については,例えば,その企業の資本金・出資金・株式等のうち代表者がどれほどの割合を占めているか,その企業が事業に用いる財産と代表者の個人的財産とが混同していないか,といった点に着目することが必要です。

 以上のような具体的事実に着目した上で,①〜③の要素を総合考慮した結果,これらの要素を充足する度合いが強いと認められるならば,裁判所においても企業損害の賠償が肯定される可能性があります。

 なお,最後になりますが,これまで述べてきたとおり,企業損害の賠償が肯定されるか否かは,細かな事実をいくつも積み重ねて検討した上で決まる事柄であり,裁判例も微妙な判断に分かれているという,なかなか困難な問題です。ですので,保険会社と示談交渉をしている段階では,残念ながら保険会社としても企業損害を支払いますという対応はほぼ望めないので,法的手続を起こさなければならない可能性が高いと思われます。

Q13 車両の買替え費用の賠償を請求できるか

Q.私は先日交通事故に遭い,車両も破損しました。私としては,もうこの車両は縁起が悪くて乗りたくないので,新しい車両を買い替えたいと思っています。その場合,新車の買替え費用を加害者に賠償請求できるのでしょうか。

 

 結論として,事故車両から新しい車両に買い替えるための費用は,加害者に賠償請求できないのが原則です。

 交通事故で車両が破損した場合の損害賠償請求(いわゆる「物損」の処理)の基本的な原則としては,あくまでも修理費に限られます。そして,修理費と言うのも,当該交通事故に起因する車両破損について,必要かつ相当な範囲での修理費用に限られます。

 もちろん事故の状況によっては,車両の破損の程度が著しくて,もはや物理的に修理が不可能なレベルであったり,車両構造の安全性が確保できない危険な部位の破損であったりすることもあるので,そういう場合は修理をして交通事故以前の車両の状態に回復することはもはやできません。したがって,そういう場合では,新しい車両への買替え費用を請求することが認められることもあります。

 しかし,設問の事例のように,「縁起が悪いから乗りたくない。」という理由では,買替え費用が認められることはありません。

 他方で,車両の破損を修理することは物理的に可能ではあるけれど,その修理費がそれなりに多額であるため,もはや修理をするよりも同種・同程度の車両を買い替えた方が安く済む,という事例もあります。そういう事例を,俗に「経済的全損」と呼びます。

 経済的全損の事例では,実際にかかる修理費よりも,同種・同程度の車両を買い替えることに要する費用(車両本体価格に加えて買替手続費用も含む。)の方が低いため,損害賠償の金額はより低い金額の方に制限されます。なぜなら,損害賠償の基本的な発想は,あくまでも交通事故以前の財産状態を回復するという点にあるため,同種・同程度の別の車両を買い替えることができる金額が賠償されるならば,それによって元の財産状態が回復されたとみなされるためです。

 ところで,一口に同種・同程度の車両を買い替えることに要する費用と言っても,それがいくらであるかは一義的に定義できるものではなく,そのため物損の賠償金額について,その事故が経済的全損事案であるか否かを巡って加害者側(保険会社)と争いになることがあります。

 まず,同種・同程度の車両といえるための該当性の指標は,主に車種,年式,型,走行距離,使用状態などを見ます。そして,当該車両とそれらの諸要素が共通する車両の市場価値を調べることになります。ここで車両の市場価値を調べる方法は,今の時代はいろいろありますが,最も簡便な方法はインターネット上の中古車売買サイトが挙げられます。ただし,インターネット上の情報は玉石混淆であり,車両の市場価値もその例に漏れませんので,必ずしも十分な信憑性があるとは言えません。

 インターネットが普及する以前から使われている方法は,オートガイド自動車価額月報(いわゆるレッドブックと呼ばれる本)に記載されている中古車の取引価格を参照にする方法です。

 これらの情報を総合的に勘案しながら,加害者側(保険会社)との間で経済的全損の事案か否かを交渉していくことになります。

 しかし,その交渉はなかなか難易度の高い交渉になることもあり得ますので,その場合は交通事故事件に詳しい弁護士に相談した方がよいかもしれません。当事務所は,交通事故事件を豊富に取り扱ってきた実績がございますので,お気軽にご相談ください。

Q14 過失割合について

Q.私は先日交通事故に遭い,怪我を負いました。車両も損傷を負いました。それで,加害者に損害賠償を請求しましたが,加害者は私にも不注意な面があったと主張して,過失割合は(加害者)3:(私)7であると言っています。私としては,(加害者)10:(私)0であると考えており,譲るつもりはありません。こういう場合,どのように解決することができるのでしょうか。

 

 まず初めに,過失割合とは何か,という点から説明いたします。

 民法709条に基づく不法行為の損害賠償請求をするに際して,被害者は自らに生じた損害額を加害者に請求できるのが原則になりますが,その損害額が100%認められないこともあります。なぜなら,我が国の法律及び判例では,「過失相殺」という概念が存在し,被害者にも一定の落ち度や不注意があったと認められる場合には,公平の理念に基づき,その分の損害額を割り引くという扱いがなされるからです。被害者の落ち度や不注意とは,例えば衝突事故の直前に被害者もスピードを出し過ぎていたとか,歩行者が赤信号を無視して横断中に轢かれてしまった,などが挙げられます。

 過失相殺による損害額の減額を決定するには,被害者に存在する落ち度や不注意(これを「過失」と呼びます。)の具体的内容を踏まえて,これを加害者の過失の具体的内容と比較して数字の割合に引き直すことが必要です。過失割合とは,このようにして両者の過失の具体的内容に基づき両者の過失を数字の割合で表現したものを言うのです。例えば,(被害者)1:(加害者)9のような形です。

 このようにして,仮に被害者に発生した損害額は全部で100万円だとしても,(被害者)1:(加害者)9の過失割合とされれば,被害者は自分の過失割合分=100万円×0.1=10万円が賠償額から減額されることになります。ですので,往々にして加害者は,賠償すべき損害額を抑制するために,自身に有利な過失割合の数値を主張するものであって,被害者の意見と大きく乖離することもしばしば有ります。

 では,このように損害賠償の金額を大きく左右することもあり得る過失割合の数字は,どのようにして決定されるのでしょうか。

 当然のことながら,何となくこれくらい相手が悪いだろうというような感覚論で決まるものではありません。実は,過失割合の数字というのは,これまでの膨大な裁判例の積み重ねにより,こういう状況で発生したケースではこの数字とする,というおおよその相場が既に形成されています。その相場を知るには,「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号 別冊38号」(出版:判例タイムズ社)という書籍にまとめられており,弁護士も裁判官も,この書籍に掲載されている相場を出発点として過失割合を考えます。この書籍は,別冊判タ,または緑の本(表紙が緑色なので)などと呼ぶことがありますが,以下では別冊判タと称します。

 ただ,裁判官も弁護士もその相場の数値を杓子定規に採用するわけではなく,当該事案における個別具体的な事情を踏まえて,若干の数値の修正をすることも有ります。ちなみに,どういう事情があればどの程度数値の修正をすればよいか,という点も,別冊判タにある程度解説されていますので,それを参考に検討します。

 さて,損害賠償額を決める上で過失割合を決定しなければならないとき,当事者がそれぞれいくつの数値を主張するかは,個々人の自由です。しかし,当事者同士の話し合いではお互いに折り合いがつかなかったとしたら,最終的には裁判所に訴えを提起して,裁判官の中立公正な判断によって過失割合を決めてもらうことになります。

 しかし,前述したとおり,裁判官も別冊判タに掲載されている割合の数値を出発点として判断しますから,過失割合がどのくらいの数値に収まるかは事前にある程度予想がつきます。仮に当事者の一方が主張する過失割合の数値が,別冊判タの相場から著しくかけ離れていたら,裁判になってからもその主張を維持することは困難です。

 ですので,裁判を長期間続けることや弁護士に支払う報酬の金額を一切気にしないというのであればともかく,そうでないのであれば,示談交渉の段階でもそれなりに相場を意識した過失割合の数値を主張することが,結局は自分の利益にかなうと言えるのではないでしょうか。

Q15 保険による治療費負担

Q.私は先日交通事故に遭い,怪我を負いました。それで,病院に通院してかれこれ半年ほどになりますが,保険会社が今月末までで保険による治療費負担を打ち切る,という通知をしてきました。私としては,まだまだ痛みが残っているので,ここで通院を止めさせられるのは納得いきません。こういう場合,引き続き治療費を負担してもらえるようにすることはできるのでしょうか。

 

 交通事故によって怪我を負った被害者の方が,治療のために病院に通い,それにより発生した治療費は,加害者が賠償すべき損害に含まれるのが原則です。それ故,加害者が自分で任意保険を契約している場合には,当該任意保険会社が保険契約の枠内で病院への治療費支払を代わりに行ってくれるのが通常です。

 しかし,どれだけ病院に通おうとも無制限で全部面倒を見てもらえるわけではありません。加害者の損害賠償責任の範囲に含まれるのは,当該交通事故によって発生した怪我(又は疾病)の治療に限られ,尚且つその怪我(又は疾病)を治療するのに必要かつ相当な方法・手段に限られます。

 この観点から,しばしば保険会社の対応の中で問題になるのが,①被害者の方が負傷を訴える部位が,当該交通事故によって発生したものと言えるか否か判然としないケース,②事故発生から一定期間経過しており,既に客観的には器質的損傷が回復したと考えられ,治療の必要性があると言えるか否か判然としないケース,などがあります。以下で詳述します。

 まず①とは,単純化して言うと,整形外科以外の診療科を受診したいと被害者の方が望む場合によく問題となります。一般的に,交通事故によって発生する傷害は,骨折,捻挫,打撲,神経症状が多く(もちろん,極めて重大な事故では,脳や内臓などに損傷が発生したり,人体の一部が切断されたりすることもあります。),こういう場合では整形外科医を受診することになります。しかし,被害者の方としては,そういう部分以外にも身体に不具合が発生していると感じることはしばしばあります。被害者の方からすれば,事故以前はそんな不具合はなかった,これは事故が原因だ,と考えるのは素直な発想ですが,保険会社からすれば「通常この形態の交通事故でそういう部位に不具合が発生することは考えにくい。その不具合は,前からあったものか,あるいは事故とは違う別の原因で今発生しているのではないか。」という考えに流れやすいです。

 そうしたときに,その部位を専門に扱う他の診療科を受診し,その治療費を保険会社に負担してもらおうとするには,まずもって主治医たる整形外科医にその事情を説明し,主治医から他の専門医を紹介してもらうことが必要です。主治医からの医学的判断で,他の専門医を受診するよう指示を出してもらうという形でなければ,被害者の個人的判断で勝手に通っただけだという話にされてしまいます。必然的に,それは過剰治療,不要治療だなどと言われてしまいます。

 そうやって紹介状を出してもらったとしても,やはり保険会社の見解では,その部位の不具合と今回の交通事故の間に因果関係があるとは通常考えられない,ということに固執し,結局保険対応してもらえないこともあります。こうなった場合は,いったん健康保険を使って自費で負担し,後日の示談交渉の際に請求する,それでもダメなら法的手続をとって裁判所の判断を仰ぐ,などの形をとることになります。

 次に②については,設問のような事案は正に②の問題が顕在化したケースと言えます。保険会社は,これまでの膨大なデータの蓄積から,こういう症状の怪我であれば治療に要する平均的期間はこれくらいだ,という基準を持っているようです。そこで,その平均的期間が経過する頃になると,そろそろ通院を終わってほしいと打診してきます。その平均的期間は,具体的症状によって様々ですが,短いと3ヶ月ほど,最も多いのが6ヶ月ほどくらいだと思われます。

 言うまでもなく,人間の身体は機械とは違いますから,誰でも一律に同じ時間で治癒するわけではありません。ですので,保険会社も,その被害者の方の具体的治療状況や経過を主治医に照会した上で,最終的な打ち切り期限を決めることがありますが,いずれにせよ保険会社は被害者の方の了解がない場合でも打ち切りを実行してきます。

 これに対して,さらなる治療期間の延長を望むならば,やはりここでも重要なのは主治医による医学的所見の内容です。主治医の判断として,この被害者にはまだ〜の症状が残っていて,それを治癒するにはまだ治療を継続する必要がある,そして〜の治療法は〜の症状に対して有効性が認められる,というような意見を出してもらえば,保険会社に対しても効果的な材料になり得ます。

 そのような主治医の医学的所見を出してもらって,保険会社と延長の交渉をやることが有効です。ただ,①と同じで,そこまでやっても結局保険会社の決定は覆らないこともありますので,そういう場合は自費の負担で通院を続ける必要があります。

 交通事故の被害者の方が,弁護士に依頼をするタイミングは様々ですが,上記のように治療打ち切りを通告されたというタイミングで来られる方も多いです。治療延長の交渉は,弁護士に任せた方が良いことが多いので,そのタイミングで弁護士を検討することも有益かと思われます。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。

Q16 会社役員の休業損害

Q.私は先日交通事故に遭い,怪我を負いました。それで,病院に通院するために仕事を休んだときがあり,その分の休業損害を保険会社に請求したいと思っています。私の仕事は会社の代表取締役で,会社からは役員報酬として年俸600万円を受け取っています。私のような会社役員の休業損害は,一般の労働者と異なる扱いになるのでしょうか。

 

 交通事故に基づく怪我の治療のために仕事を休まざるを得なくなった場合,会社役員であっても休業損害を請求できるのが原則です。しかし,いくらの金額を休業損害として計算するかは,一義的に明確なやり方があるわけではなく,争いになるケースが多いです。

 なぜかと言うと,会社役員が受け取る役員報酬は,会社との間の委任契約に基づき支払われるもので,その報酬の中身の性質は「労務対価部分」と「利益配当部分」に区分される,と言われているからです。

 つまり,会社役員が実際に何らかの労働をしたことの対価としての意味を持つ部分と(前者),会社役員として行った経営の結果,会社に利益がもたらされたことの一部が還元されたという意味を持つ部分(後者),に分けて考えられています。

 そして,休業損害は,物理的に仕事を休まざるを得なかったために被害者の勤労収入が減った部分を補償するという目的のものなので,必然的に会社役員の報酬のうちの「労務対価部分」だけが対象となります。

 そうすると,設問の方の場合,年俸600万円のうち「労務対価部分」はいくらなのかを考えなければなりませんが,これをいくらと算出すべきかは,前述のとおり一義的に明確なやり方はありません。事案ごとに,ケースバイケースで考えていく必要があります。どういう要素を勘案して「労務対価部分」と「利益配当部分」を分けるべきかというと,裁判例では主に,役員報酬の額そのもの,会社の規模・収益状況・業務内容,当該役員の地位・職務内容・年齢,当該会社の従業員に対する給料の額,当該会社の他の役員に対する報酬の額,類似の会社における役員報酬の支給状況,などを総合的に考えるという形が多いです。

 以上のとおり,会社役員の報酬のうちの「労務対価部分」をどのように考えるかは,かなり抽象的な枠組しか定まっていませんので,具体的な算定の仕方次第では大きく金額に差があり得ます。被害者の方としては,なるべく多額の休業損害をきちんと払ってもらいたいというのは当たり前の発想なので,こういうケースでは弁護士に依頼することをお勧めします。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。

Q17 家事従事者の休業損害

Q.私は先日交通事故に遭い,怪我を負いました。私は,もっぱら主婦として,夫や子どものために家事労働に従事していました。しかし,交通事故以降,病院に通院するために家事労働を休まざるを得なくなったことがあり,また痛みのせいで同じ作業に費やす時間が相当長くなり,家事労働に対する負担は従前よりも増えています。こういった主婦の家事労働に対してマイナスの影響が発生している点に対して,交通事故の損害賠償の中で考慮してもらうことはできないのでしょうか。

 

 設問の問いかけに対する答えとして,主婦の家事労働に対する休業損害を観念し,加害者への損害賠償へ含めることは可能です。なお,女性が主婦として家事労働を行っている場合に限らず,男性がいわゆる主夫として家事労働を行っている場合も,同様に考えることができますが,以下では簡略化のためにあえて「主婦」とのみ記載いたします。

 そもそも休業損害とは,交通事故に基づく怪我の治療のために仕事を休まざるを得なくなった,あるいは不十分な労務提供しかできなくなったために,本来得られるはずであった利益(賃金や報酬など)を失った場合に,その得られるはずだった利益を加害者に賠償してもらうというものです。

 この点,主婦業に対しては,誰かが賃金や報酬を支払っているわけではなく,仮に主婦業ができなくなったとしてもそれによって得られるはずだった利益を失う,ということはありません。そのような発想から,かつては主婦には休業損害が発生しないという考え方も見られましたが,それは主婦の支えによって夫の勤労収入が支えられているという実質的な貢献を不当に看過するものであり,現在は主婦にも休業損害を観念すべきだという考え方が裁判でも認められています。

 しかし,具体的にどのような算定方法で,いくらの損害額を見積もるかという点については,一義的に決まった方法が定められているわけではなく,個々の事案ごとに検討する必要があります。それゆえ,保険会社との示談交渉でも,争いになることが多いです。

 基本的な考え方としては,女子労働者の賃金センサスに基づく平均賃金を基礎収入とみなして算定する方法が一般的です。ただ,年齢を問わず女子労働者全体の平均値をとるか,当該被害者の年齢に対応する女子労働者の範囲の平均値をとるか,という考え方に分かれます。また,当該被害者が主婦でありながらパートタイマー労働者(又は内職労働者)として勤労収入も得ているという場合では,その実際の勤労収入の額と前述の賃金センサスに基づく平均値の額とを比較し,より高い方を採用するというやり方が多いです。

 それと,主婦の休業損害の問題で,より激しく争われることが多い論点は,休業の期間をいつまで認めるかという点や,主婦業ができなかったという割合を何パーセント認めるかという点です。

 つまり,相当重傷を負って入院を余儀なくされたか,自宅でも寝たきりの状態なのであれば,その期間は家庭内の家事労働を全然できなかったという点で争いになりにくいですが,自分で動けて通院の形で治療を続けているというケースでは,果たして家事労働に影響が生じているのはどの部分なのか(逆に言えば交通事故以前と同じように作業できているのはどの部分なのか)という点を,客観的に明確に線引きするのは困難でしょう。さらに,一般的には時間経過とともに傷害が治癒して以前と同じような身体の動きが取り戻せることも鑑みれば,ある時点までは家事労働に影響が生じていたとしても,それ以降は影響が生じていないというタイミングを特定することが理論上は可能と言えますが,現実にはそのタイミングを客観的に明確に線引きするのも困難です。

 当然ながら,保険会社としては,家事労働への影響の割合をより低く見積もり,影響が出なくなったタイミングをより早期に特定しようとし,少しでも休業損害の発生を低額に収めようと主張してきます。

 以上のとおり,主婦の休業損害をどのように考えるかは,かなり抽象的な枠組しか定まっていませんので,具体的な算定の仕方次第では大きく金額に差があり得ます。被害者の方としては,なるべく多額の休業損害をきちんと払ってもらいたいというのは当たり前の発想なので,こういうケースでは弁護士に依頼することをお勧めします。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。

Q18 無職者及び学生の休業損害

Q.私は先日交通事故に遭い,怪我を負いました。それで,現在も病院に通院を続けています。私は,今は仕事をしていない無職者(又は大学生)なのですが,交通事故の際にもらえるという休業損害を,私も支払ってもらうことはできるのでしょうか。

 

 設問の問いかけに対する答えとして,無職者又は学生に対する休業損害を,加害者への損害賠償として請求することは原則としてできません。

 そもそも休業損害とは,交通事故に基づく怪我の治療のために仕事を休まざるを得なくなったり,あるいは不十分な労務提供しかできなくなったりしたために,本来得られるはずであった収入(賃金や報酬など)を失った場合に,その得られるはずだった収入を加害者に賠償してもらうというものです。

 つまり,もともと現に受け取っていた収入があったのを,交通事故の影響でその収入の一部がカットされたから,そのカット分の補償を請求するという意味です。

 その観点から,無職者と学生は,現に就労しておらず,したがって収入もないわけですから,交通事故の影響で何もカットされてはいないという帰結になり,休業損害は請求できないということになります。

 ただし,例外的に無職者と学生でも,休業損害を請求できる場合があります。

 1つには,学生が本分ではあるがアルバイトをして収入があったというケースです。交通事故の影響でアルバイトの休業を余儀なくされたというのであれば,実際の賃金をベースにして休業損害を請求できます。

 2つ目として,交通事故当時は無職者又は学生ではあるが,現に仕事に就く予定が具体的に決まっており(いわゆる「内定」の状態),収入を得られる見込みが立っていたのに,交通事故の影響でその就労開始時期が遅れてしまったとか,就職内定が取り消されてしまったとか等のケースです。さらに,正式な内定までは至っていない場合でも,個別具体的な事情を総合的に勘案した上で,間近い将来に実際に就労を開始していた強い可能性が肯定できるようなケースでも,休業損害を認めた裁判例があります。

 しかし,そのようなケースでは,では具体的にいくらの金額を休業損害として考えるかというのは,非常に難しい部分があり,特に①いつからいつまでを休業の時期とみるかの期間の問題,②損害額計算の基準となる収入金額として,どれくらいの収入を得られる見込みかの問題,などの点で一義的に明快な考え方を示すのは困難です。 

それゆえ,保険会社との示談交渉でも,争いになることが多いです。

 以上のとおり,無職者や学生の休業損害をどのように考えるかは,かなり抽象的な枠組しか定まっていませんので,具体的な算定の仕方次第では大きく金額に差があり得ます。被害者の方としては,なるべく多額の休業損害をきちんと払ってもらいたいというのは当たり前の発想なので,こういうケースでは弁護士に依頼することをお勧めします。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。

Q19 被害者側の過失

Q.私は5歳になる孫がいます。先日,私が孫を連れて公園に行こうとしたところ,少し私が目を離した間に孫が道路に飛び出してしまい,交通事故に遭ってしまいました。孫は怪我を負い,現在も病院に通院を続けています。加害者が加入していた保険会社と損害賠償の協議をしていますが,保険会社からは,孫から目を離した私の過失が大きいので相当の過失相殺が適用されるケースであると言われています。確かに不注意だったと思いますが,私の過失を根拠に過失相殺が適用されるというのは,法律的に正しい主張なのでしょうか。

 

 過失相殺の割合は,交通事故の直接の当事者(加害者と被害者)の不注意,落ち度を基にして決まるのが原則です。しかし,例外がありますので,以下で詳述します。

 まず本件のような幼い子どもは,交通事故に遭ったことについて何らかの不注意,落ち度があると問えるものかという点を考える必要があります。なぜなら,幼い子どもは当然道路交通法を理解していないし,何が危険な行動で何に気をつけなければならないかの分別を備えていないからです。

 この点について,最高裁まで争われた事案がありますが,最高裁は「被害者たる未成年の過失をしんしゃくする場合においても,未成年者に事理を弁別するに足る知能が具わっていれば足り,未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合にごとく,行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しない。」と述べました。これはつまり,未成年者が加害者となった場合にその責任を問うために求められる知能のレベルと,被害者となった場合に過失相殺を適用するために求められる知能のレベルとでは差異があり,前者の方がより高度な知能が必要であるとしましたが,過失相殺を適用するためには「事理を弁別するに足る知能」までは必要である,ということです。

 この観点からすると,本件の5歳という年齢は,まだ事理を弁別するに足りる程度とは言えないという帰結になる可能性が高いです。

 そうだとすると,5歳の子どもに対しては不注意,落ち度を指摘して過失相殺を適用することはできず,加害者は100%の損害賠償義務を余儀なくされることになりますが,しかし本件にように子どもを見守るべき保護者の不注意で交通事故が惹起されたときに,加害者が100%の責任を負わされるというのは公平に欠けると言えます。その点がまさに争われた事案もあり,最終的に最高裁は「民法722条にいわゆる過失とは単に被害者本人の過失のみでなく,ひろく被害者側の過失を包含する趣旨と解するを相当とする。」と述べ,被害者側の過失という概念を承認しました。

 そして,被害者側の過失が考慮される範囲を画する限度をどこに置くかという点については,最高裁は「被害者側の過失とは,被害者本人と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいう。」と定義しました。

 ただし,この「身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係」という定義は,一義的に明確な基準とは言えないので,実際の事案ごとにこの定義にあてはまると言えるか否かを検討する必要があります。

 本件のように,祖父と孫という関係だけではこの定義にあてはまるともあてはまらないとも言えず,他のプラスαの要素の有無も考えなければならないでしょう。例えば,普段から同居している孫なのか,同居はしていないけれども近所に住んでいてほぼ毎日接している孫なのか,1年に1度だけ里帰りしたときに会う孫なのか,という点によって,結論は変わってくるでしょう。

 それゆえ,保険会社との示談交渉でも,被害者側の過失が争点になったときは,専門家たる弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。

Q20 消滅時効

Q.私は交通事故の被害に遭い,脳に大けがを負いました。とても大きなけがだったので,治療に1年以上を要し,その後主治医から「もうこれ以上の快復は見込めない。」として症状固定の判断を受けました。それから,後遺障害認定を受けるための手続をやり,後遺障害等級は認められ,ようやく私の受けた損害額が全部でいくらかという計算ができました。その計算を基に保険会社と示談交渉をしていますが,金額が大きいのでなかなか折り合いがつかず,現在に至っています。これらの作業に時間がかかり,交通事故発生の日から既に3年6ヶ月ほど経過していますが,先日人づてに「交通事故の損害賠償の権利は3年たったら法律上なくなってしまうらしい。」という話を聞き,たいへん驚きました。私は,すでに損害賠償の権利を失ってしまったのでしょうか。

 

 交通事故の損害賠償の権利は,確かに3年でなくなるのが法律の原則です。これは,不法行為(交通事故を含む法律上の広い概念で,民法709条で規定)に基づく損害賠償請求は3年の消滅時効にかかると民法724条で定められているからです(ただし民法改正で変更になる予定)。

 ただ,3年という期間のスタートはどこから始まるのか,という点はケースバイケースであり,いろいろな事案で複雑困難な問題を引き起こすこともあるのですが,本件のような交通事故による傷害で後遺障害が残ったというケースでは,症状固定と診察されたタイミングから3年がスタートする,という考え方が実務では一般的です。

 なので,本件では,症状固定と診察されたタイミングからはまだ3年は経過していないので,損害賠償の権利は消滅していないということになります。

 また,事案によっては,交通事故による傷害で症状固定になって後遺障害が残ったというのではなく,時間をかけて完治することができたということもあり得ますが,この場合も完治と診察されたタイミングから3年がスタートするという考え方が一般的です。

 なぜこのように交通事故の発生日をスタートとするのではなく,症状固定と診断あるいは完治と診断された日からスタートとするのかというと,人身傷害に関する損害額は症状固定又は完治にならないと計算ができないからです。

同様に,不幸にも死亡事故であったときは,死亡日がスタートとなります。

 人身傷害が発生していない事故,つまり自動車のキズ等だけの物損事故のときは,理論上は交通事故の発生日からすぐに損害額を計算することができるということになるので,このときは交通事故の発生日から3年がスタートするというのが原則です。

 他にも,ひき逃げ事故などのため加害者が誰なのか,被害者にとっては知り得ないという状況が起こることもありますが,こういう場合はそもそも加害者が誰なのかということが判明して初めて,3年の期間がスタートする形になります。

 次に注意が必要なのが,被害者にとって症状固定した(又は完治した)と考える時期と,加害者及びその保険会社にとって症状固定した(又は完治した)と考える時期とは,常に一致するとは限らず,その点で食い違いが生じた結果,予期せぬ時期に消滅時効が完成した,という反論が加害者及びその保険会社側から出されることもあるという点です。

 分かりやすく具体例をあげると,被害者としてはまだ傷害が完治しておらず,治療を継続したいが,保険会社からは既に症状固定になったと判断され,治療費の保険対応が打ち切られたとします(これをX時点とします。)。その後,被害者は自己負担で治療を続け,その1年後に被害者自身も症状固定と判断し(これをY時点とします。),後遺障害申請を行いました。その後紆余曲折を経て,X時点から3年1ヶ月経ったという時点で(Y時点からはまだ2年1ヶ月。)被害者が加害者を相手どって損害賠償請求訴訟を提起した場合,加害者からは既に消滅時効の3年が経過したという反論が出され,最終的に裁判官もその主張を受け入れ消滅時効の完成という結論を導き出す可能性は,あり得ます。

 したがって,加害者との間で症状固定の時期が一致しないことが予想されるケースや,そもそも3年の期間が満了に近いというケースでは,消滅時効の完成を確実に避ける意味で,時効中断措置をとっておくのが賢明です。

 時効中断措置にはいくつかの方法がありますが,典型的なものは民事訴訟を提起することです。他に,被害者の方が独力で行う意味で比較的簡便と思われるのは,民事調停の申し立てをするというのもあります。もちろん,民事訴訟も弁護士に依頼をせずに独力でやることは禁止されてはいません。

 以上のとおり,消滅時効期間の完成が争点になる可能性があるときは,専門家たる弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。

※以上の話は,損害賠償請求の消滅時効に関する話であり,20年の除斥期間の話,及び自賠責保険の保険金請求の話は,また別になります。

Q21 後遺障害の期間

Q.私は交通事故の被害に遭い,いわゆるむち打ち症の症状が出ました。後遺障害の申請を出したところ,14級9号の認定が出ました。それを前提にして保険会社と損害賠償額の交渉をしていますが,保険会社は,後遺障害に基づく逸失利益が生じる期間を5年間として計算すると主張しています。これは法律的に正しい意見なのでしょうか。私の年齢は40歳です。

 

 交通事故の損害賠償の費目として,後遺障害が残存したことに対して,後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益が認められています。

 前者は,後遺障害が残ってしまったことで被害者が受ける精神的苦痛に対して手当てされる意味合いのものです。

 後者は,後遺障害が残ってしまったことによって被害者の労働能力に一部欠損が生じてしまい,そのことがひいては被害者が今後の人生で稼得することができる収入に減少が生じさせるという仮定的前提のもとに,その減少する収入分を補おうという意味合いのものです。つまり,人間を機械やロボットのように見立てて,後遺障害が残存したことを一種の機能低下ととらえ,そのせいで生産能力が減少⇒収入が低下する,という風に言い換えれば,分かりやすいかもしれません。

 後遺障害は,その具体的内容や程度に応じて等級ごとに区分されています。そして,等級ごとに,労働能力の欠損度合いをパーセンテージで定義しています。例えば,14級なら5%,12級なら14%となっています。

 交通事故発生時の被害者の年収を基準として,14級の後遺障害のケースでは,その基準年収額から5%の金額が今後減少していく,とみなします。

 そして,後遺障害というのは,基本的にその障害が今後一生涯残存するという(もはや現代医学では完治は望めない)ということが前提とされていますので,収入の減少は,一般に人が稼働できる年齢の上限である67歳までずっと続くものとして考えます。なお,67歳に間近い年齢の方や既に67歳を超えた方が交通事故に遭った場合の処理は,例外的な扱いになりますが,ここでは詳細は省略します。

 このようにして,基準年収,労働能力喪失率,67歳までの残存期間という要素によって,後遺障害逸失利益が決まりますが,ただし,将来発生する収入の減少分と全く同じ金額を今ただちに補填されるわけではなく,金利がつくことを勘案して現在価値に割り引いて計算し直します。

 ご質問のケースでは,後遺障害逸失利益が発生する期間を5年間と制限するという主張がされているとのことです。

 前述のとおり,後遺障害の残存期間は,67歳まであと何年かという考え方をするのが原則です。そういう意味で,現在40歳の質問者のケースでも,5年間に制限するのは理論的には不当と言えます。

 しかし,実務の世界では,むちうち症を理由とする後遺障害認定14級のケースで後遺障害残存期間を5年程度として計算することは,残念ながらよく見られます。示談交渉ではなく,民事訴訟を提起して,裁判所の公正な判断を仰いだとしても,同じような期間しか認められなかったという事例は数多くあります。

 これはなぜかというと,いくつかの理由がありますが,例えば以下のような見解があります。即ち,器質的損傷があることは他覚的所見(画像など)では確認できないのに,被害者本人の痛み等はずっと続いているという事態が,特にむち打ち症では多く見られ,こういうケースでは本来の交通事故に起因する器質的損傷以外の要因(社会的要因,家庭的要因,心因的要因等)が多少なりとも関わっていると考えられるところ,このようにして発生した損害を全て加害者に負担させるのは公平ではないという考え方があります。

 それ故,裁判所としても,具体的事案の解決に際して妥当な水準を考えたときに,後遺障害の残存期間を5年程度に制限するというやり方をとることがあるのだと思われます。

 なお,14級のケースだけに限らず,12級の認定を受けられたむち打ち症のケースでも,後遺障害残存期間を10年程度に制限されることは多くあります。

 しかし,14級のむち打ち症だと5年,12級のむち打ち症だと10年,と機械的に運用されているわけではなく,個々の事案に特有の事情を勘案して,そのような期間制限は不当だと代理人が主張して,実際にそれが裁判所でも認められたことも当然あります。

 例えば,明らかに神経損傷が疑われる症状を呈しており,その所見が他覚的にも確認できる(画像など)というケースでは,この後遺障害は一生涯残存すると考えることがむしろ自然であるので,通常の原則に基づいて67歳までの残存期間を主張するべきでしょう。

 当事務所は,過去に豊富な交通事故事件の解決実績がありますので,個々の相談者の方のケースにあった最適な解決方法をアドバイスすることが可能です。何かお困りごとがあれば,お気軽にご相談ください。

Q22 弁護士費用特約

Q.私は自転車に乗っていたところ交通事故の被害に遭い,怪我を負ったのと,自転車が壊されてしまいました。加害者の方は,任意保険に入っていませんでした。怪我の方は軽く済んだので,しばらく病院に通って今は治癒しています。その分の治療費,慰謝料などは,自分で自賠責保険に請求を出して,支払ってもらうことはできました。しかし,自転車が壊れて新しいものに買い替えたのですが,その分の費用10万円は,自賠責保険の対象外と言われて支払ってもらえませんでした。加害者も進んで弁償しようという姿勢は見られません。10万円くらいだと弁護士に依頼した場合赤字になるかもしれず,ためらっていますが,最近友人から「交通事故の被害の場合は,弁護士費用がタダになることもあるらしい。」という話を聞きました。これはどういう話なのでしょうか?

 

 交通事故の被害にあって金銭的な損害が発生した場合,その損害賠償を請求することができますが,請求する権利があるという話と現実にお金を回収するという話はイコールではありません。仮に,被害者が民事訴訟を提起して,裁判所としても一定額の損害賠償支払を命じる判決を下した場合には,加害者が所有する財産(不動産,預貯金等)や,加害者が働いている会社等からの給料を差し押さえて,損害賠償額の回収を図ることになりますが,裏を返せば財産が何もない人や働いていない人からは1円も回収することはできません。そういう場合,被害者の方は最終的に泣き寝入りせざるを得ません。

 しかし,現実社会ではとてもたくさんの自動車が走っており,それに比例して交通事故の発生は避けられませんので,泣き寝入りする被害者の数を減らすために,自動車を保有する人は自賠責保険への加入が義務になっています。したがって,交通事故の被害者は,最低限自賠責保険に基づく救済は受けられる仕組みになっているのですが,ただ残念ながら自賠責保険による救済金額は傷害事案のケースでは上限120万円までとなっています。そして,ご質問の事案のとおり,自賠責保険はあくまで人身傷害に基づく損害をカバーするものであり,物的損害は対象外となっています。

 つまり,加害者が任意保険に加入していないケースで,人身傷害に基づく損害が120万円を超過した,又は物的損害が発生したというときは,原則に立ち返って加害者に対して直接請求する他はないことになります。

 さて,ご質問の事案では,自転車の買い替え費用10万円(壊れた自転車と同種同等のものを買い替えたと仮定し,買い替えの必要性・相当性に問題はないという前提です。)を加害者に請求したいが,弁護士に依頼すると赤字になるかもしれない,という点を懸念しています。

 しかし,確かに質問者の友人のいうとおり,交通事故の被害にあったケースでは,弁護士に依頼する費用が0円で済むことがあり得ますので,ご質問者もまずはそのやり方を使えないかと調べてみると良いと思われます。

 それは,被害者の方がご自身で契約している任意の自動車保険に,任意保険会社が弁護士費用負担するというオプション(特約)が付いているならば,任意保険会社が弁護士費用を負担してくれる形になる,という話です。

 これはあくまでもオプションなので,人によっては付けていないこともあるし,あるいはそもそも自分は任意自動車保険に入っていないという方もいらっしゃいますが,例えば被害者の方の父親が任意自動車保険に入っていて弁護士費用特約が付いているならば,その分を使える,ということもあります。自動車保険ではないが,人身傷害保険には入っているという場合も,弁護士費用特約が付いている可能性はあります。結局,被害者の方またはその家族が加入している保険の契約内容がどういう内容になっているかによって決まるので,詳しくは保険会社に問い合わせされることをお勧めします。ちなみに,弁護士費用を保険会社が負担してくれると言っても,無制限ではなく,多くの場合は上限300万円までとなっています。

 このように,弁護士費用特約が適用できる場合は,被害者が負担する弁護士費用のことは基本的に心配しなくても良くなるので,積極的に弁護士に依頼する方向で考えていただければと思います。

 当事務所は,過去に豊富な交通事故事件の解決実績がありますので,個々の相談者の方のケースにあった最適な解決方法をアドバイスすることが可能です。何かお困りごとがあれば,お気軽にご相談ください。

Q23 少額訴訟・支払督促

Q.私は自転車に乗っていたところ,交通事故の被害に遭い,怪我をして,自転車も壊されてしまいました。加害者の方は,任意保険に入っていませんでした。怪我の方は軽く済んだので,しばらく病院に通って今は治癒しています。その分の治療費,慰謝料などは,自分で自賠責保険に請求を出して,支払ってもらうことはできました。しかし,自転車が壊れて新しいものに買い替えたのですが,その分の費用10万円は,自賠責保険の対象外と言われて支払ってもらえませんでした。加害者も進んで弁償しようという姿勢は見られません。私は弁護士費用特約も使えないので,10万円くらいだと自費で弁護士に依頼した場合赤字になるかもしれず,ためらっています。そこで,自分でできる手段で加害者に請求することを考えていますが,どういう手段があるのでしょうか?

 

 以前にこのコラムで,弁護士費用特約が適用できる場合の解説をいたしましたが,今回は弁護士費用特約が使えないという前提の相談です。そうだとすると,自費で弁護士費用を負担しなければなりません。

 弁護士費用でいくらかかるかは,弁護士ごとに自由に料金を設定できますので,まちまちです。ただ,一般的によく見られる料金形態としては,着手金と成功報酬の二段階で料金を支払ってもらうというやり方です。着手金とは,依頼した最初の時点で支払ってもらうもので,これは事件の結果がうまくいこうといくまいと,後で返金したりはできません。成功報酬とは,弁護士の介入によって依頼者にとって良い結果(損害賠償の示談が成立したなど)がもたらされたときに,あらかじめ決めておいた金額や割合に応じて,支払ってもらうものです。

 したがって,損害賠償の金額が10万円くらいだと,着手金+成功報酬として支払うお金の方が超過することはあり得ます。ただ,最近は着手金無料,成功報酬のみで受けてくれる弁護士も増えていますので,そういう弁護士を探して依頼するというのも一つのやり方です。

 さて,ご相談の中身は,弁護士に頼まないでも自分でなんとかできる手段はないか,ということですが,加害者が任意の交渉では誠実に対応してくれないという場面では法的手続に移行するしかありません。

 ここで初めに注意すべきは,我が国では本人訴訟が法律上許容されているので,通常の民事訴訟を弁護士に頼まないで本人が起こすことは禁止されてはいません。しかし,現実的に民事訴訟を適切に進めるには,法律の知識や裁判所のルールなどに通じている必要があるので,よほどしっかり自分で勉強しないと,本人訴訟は難しいでしょう。

 まず,少額訴訟という制度があります。これは,簡易迅速な手続により60万円以下の金銭の支払を求める訴訟です。通常訴訟に比べて,よりシンプルなルールで訴訟が行われます。また,原則として1回限りで審理を終えることになっていますので,長期間訴訟が続く事態も避けられます。なお,少額訴訟で出された判決に不服があるときは,その同じ簡易裁判所へ異議を申し立てることができます。少額訴訟を提起するには,管轄の簡易裁判所へ訴状を提出することが必要です。

 次に,支払督促という制度があります。これは,訴訟のように裁判所において審理期日が設けられるわけではなく,被害者が提出した書類の審査のみで裁判所が支払督促を加害者に対して発布してくれるというものです。支払督促を行うには,管轄の簡易裁判所へ申立書を提出することが必要です。

 支払督促を受け取った加害者は,その請求内容に不服があれば裁判所へ異議を申し立てることが許されており,異議が出された場合は通常訴訟に移行することになります。異議を申し立てることができるのは送達を受けた日から2週間以内なので,その期間内に何も出されなければ,支払督促を根拠にして強制執行をすることができるようになります。

 注意が必要なのは,前述のように,支払督促の発布にあたっては裁判所の審査がありますので,交通事故の損害賠償の場合には支払督促の制度になじまないとして却下されることもあり得ます。例えば,過失割合で双方の主張が大きく食い違っている事件とか,慰謝料の金額で争いがある事件などは,具体的に細かな事実を認定した上で法的判断を下す必要があるので,書類のやり取りだけの支払督促では誤った請求になる可能性があり,こういう場合は裁判所としても支払督促を発布することはできない,と判断されることがあります。

 以上のとおり,弁護士に頼まないでも個人で行うことが比較的容易な法的手続が用意されていますので,チャレンジしてみるのもよいでしょう。

 しかし,それらの手続で加害者からすんなり支払いを得られれば良いですが,加害者の方で争ってきた場合には,結局通常の訴訟に移行せざるを得ません。当事務所は,過去に豊富な交通事故事件の解決実績がありますので,個々の相談者の方のケースにあった最適な解決方法をアドバイスすることが可能です。何かお困りごとがあれば,お気軽にご相談ください。

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