Q15 保険による治療費負担

Q.私は先日交通事故に遭い,怪我を負いました。それで,病院に通院してかれこれ半年ほどになりますが,保険会社が今月末までで保険による治療費負担を打ち切る,という通知をしてきました。私としては,まだまだ痛みが残っているので,ここで通院を止めさせられるのは納得いきません。こういう場合,引き続き治療費を負担してもらえるようにすることはできるのでしょうか。

 

 交通事故によって怪我を負った被害者の方が,治療のために病院に通い,それにより発生した治療費は,加害者が賠償すべき損害に含まれるのが原則です。それ故,加害者が自分で任意保険を契約している場合には,当該任意保険会社が保険契約の枠内で病院への治療費支払を代わりに行ってくれるのが通常です。

 しかし,どれだけ病院に通おうとも無制限で全部面倒を見てもらえるわけではありません。加害者の損害賠償責任の範囲に含まれるのは,当該交通事故によって発生した怪我(又は疾病)の治療に限られ,尚且つその怪我(又は疾病)を治療するのに必要かつ相当な方法・手段に限られます。

 この観点から,しばしば保険会社の対応の中で問題になるのが,@被害者の方が負傷を訴える部位が,当該交通事故によって発生したものと言えるか否か判然としないケース,A事故発生から一定期間経過しており,既に客観的には器質的損傷が回復したと考えられ,治療の必要性があると言えるか否か判然としないケース,などがあります。以下で詳述します。

 まず@とは,単純化して言うと,整形外科以外の診療科を受診したいと被害者の方が望む場合によく問題となります。一般的に,交通事故によって発生する傷害は,骨折,捻挫,打撲,神経症状が多く(もちろん,極めて重大な事故では,脳や内臓などに損傷が発生したり,人体の一部が切断されたりすることもあります。),こういう場合では整形外科医を受診することになります。しかし,被害者の方としては,そういう部分以外にも身体に不具合が発生していると感じることはしばしばあります。被害者の方からすれば,事故以前はそんな不具合はなかった,これは事故が原因だ,と考えるのは素直な発想ですが,保険会社からすれば「通常この形態の交通事故でそういう部位に不具合が発生することは考えにくい。その不具合は,前からあったものか,あるいは事故とは違う別の原因で今発生しているのではないか。」という考えに流れやすいです。

 そうしたときに,その部位を専門に扱う他の診療科を受診し,その治療費を保険会社に負担してもらおうとするには,まずもって主治医たる整形外科医にその事情を説明し,主治医から他の専門医を紹介してもらうことが必要です。主治医からの医学的判断で,他の専門医を受診するよう指示を出してもらうという形でなければ,被害者の個人的判断で勝手に通っただけだという話にされてしまいます。必然的に,それは過剰治療,不要治療だなどと言われてしまいます。

 そうやって紹介状を出してもらったとしても,やはり保険会社の見解では,その部位の不具合と今回の交通事故の間に因果関係があるとは通常考えられない,ということに固執し,結局保険対応してもらえないこともあります。こうなった場合は,いったん健康保険を使って自費で負担し,後日の示談交渉の際に請求する,それでもダメなら法的手続をとって裁判所の判断を仰ぐ,などの形をとることになります。

 次にAについては,設問のような事案は正にAの問題が顕在化したケースと言えます。保険会社は,これまでの膨大なデータの蓄積から,こういう症状の怪我であれば治療に要する平均的期間はこれくらいだ,という基準を持っているようです。そこで,その平均的期間が経過する頃になると,そろそろ通院を終わってほしいと打診してきます。その平均的期間は,具体的症状によって様々ですが,短いと3ヶ月ほど,最も多いのが6ヶ月ほどくらいだと思われます。

 言うまでもなく,人間の身体は機械とは違いますから,誰でも一律に同じ時間で治癒するわけではありません。ですので,保険会社も,その被害者の方の具体的治療状況や経過を主治医に照会した上で,最終的な打ち切り期限を決めることがありますが,いずれにせよ保険会社は被害者の方の了解がない場合でも打ち切りを実行してきます。

 これに対して,さらなる治療期間の延長を望むならば,やはりここでも重要なのは主治医による医学的所見の内容です。主治医の判断として,この被害者にはまだ〜の症状が残っていて,それを治癒するにはまだ治療を継続する必要がある,そして〜の治療法は〜の症状に対して有効性が認められる,というような意見を出してもらえば,保険会社に対しても効果的な材料になり得ます。

 そのような主治医の医学的所見を出してもらって,保険会社と延長の交渉をやることが有効です。ただ,@と同じで,そこまでやっても結局保険会社の決定は覆らないこともありますので,そういう場合は自費の負担で通院を続ける必要があります。

 交通事故の被害者の方が,弁護士に依頼をするタイミングは様々ですが,上記のように治療打ち切りを通告されたというタイミングで来られる方も多いです。治療延長の交渉は,弁護士に任せた方が良いことが多いので,そのタイミングで弁護士を検討することも有益かと思われます。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。