Q17 家事従事者の休業損害

Q.私は先日交通事故に遭い,怪我を負いました。私は,もっぱら主婦として,夫や子どものために家事労働に従事していました。しかし,交通事故以降,病院に通院するために家事労働を休まざるを得なくなったことがあり,また痛みのせいで同じ作業に費やす時間が相当長くなり,家事労働に対する負担は従前よりも増えています。こういった主婦の家事労働に対してマイナスの影響が発生している点に対して,交通事故の損害賠償の中で考慮してもらうことはできないのでしょうか。

 

 設問の問いかけに対する答えとして,主婦の家事労働に対する休業損害を観念し,加害者への損害賠償へ含めることは可能です。なお,女性が主婦として家事労働を行っている場合に限らず,男性がいわゆる主夫として家事労働を行っている場合も,同様に考えることができますが,以下では簡略化のためにあえて「主婦」とのみ記載いたします。

 そもそも休業損害とは,交通事故に基づく怪我の治療のために仕事を休まざるを得なくなった,あるいは不十分な労務提供しかできなくなったために,本来得られるはずであった利益(賃金や報酬など)を失った場合に,その得られるはずだった利益を加害者に賠償してもらうというものです。

 この点,主婦業に対しては,誰かが賃金や報酬を支払っているわけではなく,仮に主婦業ができなくなったとしてもそれによって得られるはずだった利益を失う,ということはありません。そのような発想から,かつては主婦には休業損害が発生しないという考え方も見られましたが,それは主婦の支えによって夫の勤労収入が支えられているという実質的な貢献を不当に看過するものであり,現在は主婦にも休業損害を観念すべきだという考え方が裁判でも認められています。

 しかし,具体的にどのような算定方法で,いくらの損害額を見積もるかという点については,一義的に決まった方法が定められているわけではなく,個々の事案ごとに検討する必要があります。それゆえ,保険会社との示談交渉でも,争いになることが多いです。

 基本的な考え方としては,女子労働者の賃金センサスに基づく平均賃金を基礎収入とみなして算定する方法が一般的です。ただ,年齢を問わず女子労働者全体の平均値をとるか,当該被害者の年齢に対応する女子労働者の範囲の平均値をとるか,という考え方に分かれます。また,当該被害者が主婦でありながらパートタイマー労働者(又は内職労働者)として勤労収入も得ているという場合では,その実際の勤労収入の額と前述の賃金センサスに基づく平均値の額とを比較し,より高い方を採用するというやり方が多いです。

 それと,主婦の休業損害の問題で,より激しく争われることが多い論点は,休業の期間をいつまで認めるかという点や,主婦業ができなかったという割合を何パーセント認めるかという点です。

 つまり,相当重傷を負って入院を余儀なくされたか,自宅でも寝たきりの状態なのであれば,その期間は家庭内の家事労働を全然できなかったという点で争いになりにくいですが,自分で動けて通院の形で治療を続けているというケースでは,果たして家事労働に影響が生じているのはどの部分なのか(逆に言えば交通事故以前と同じように作業できているのはどの部分なのか)という点を,客観的に明確に線引きするのは困難でしょう。さらに,一般的には時間経過とともに傷害が治癒して以前と同じような身体の動きが取り戻せることも鑑みれば,ある時点までは家事労働に影響が生じていたとしても,それ以降は影響が生じていないというタイミングを特定することが理論上は可能と言えますが,現実にはそのタイミングを客観的に明確に線引きするのも困難です。

 当然ながら,保険会社としては,家事労働への影響の割合をより低く見積もり,影響が出なくなったタイミングをより早期に特定しようとし,少しでも休業損害の発生を低額に収めようと主張してきます。

 以上のとおり,主婦の休業損害をどのように考えるかは,かなり抽象的な枠組しか定まっていませんので,具体的な算定の仕方次第では大きく金額に差があり得ます。被害者の方としては,なるべく多額の休業損害をきちんと払ってもらいたいというのは当たり前の発想なので,こういうケースでは弁護士に依頼することをお勧めします。当事務所は,豊富な交通事故事案の解決実績がありますので,お気軽にご相談いただければ幸いです。