Q10 自転車による交通事故でも損害賠償を請求できるか

Q.私は先日,道を歩行中に自転車に衝突されるという交通事故に遭いました。その際,怪我も負ったため,病院で治療を受けています。自動車の交通事故の被害者の場合は,その治療費やその他慰謝料などを加害者に賠償してもらえると聞いたのですが,自転車の交通事故でも同じように損害賠償を請求できるのでしょうか。

 

 ご質問への回答として結論を先に述べると,できます。

 そもそも,自動車による交通事故に限らず,我が国の民法には「不法行為」(民法709条)という概念があって,この不法行為に該当するものであれば,相手方に損害賠償責任が発生します。したがって,自転車による交通事故でも,不法行為に該当する場合には損害賠償を請求できます。

 しかし,相手方に請求できるという話と,現実に相手方からその支払いを受けられるという話は,同列には論じられません。自転車事故の場合,後者の点において,自動車事故よりも難しい側面がありますので,以下ではこの点に絞って解説をいたします。

 自動車の運転に関しては,保険制度が充実しています。まず,自動車を保有する人が必ず加入することが義務づけられている自賠責保険があります。さらに,法律上の義務はないですが,自賠責保険を補完するために自発的に任意保険に加入しているという人もたくさんいます。なぜ自動車は,これほど保険制度が充実しているのでしょうか。

 具体的に事例を挙げると,ある人が交通事故を起こして他人を怪我させてしまい,その被害者への損害賠償すべき金額が1,000万円だったと仮定します。しかし,加害者には預貯金や不動産などの財産は全くなく,1,000万円なんてとても支払えないということは,世の中にはよくあります。こういう場合は,被害者としてはとても気の毒ですが,損害賠償請求をあきらめるか,あるいは毎月少しずつの金額を長期分割で支払ってもらうのを我慢するしかない,ということになります。しかし,自動車が世の中に大量に普及して,交通事故の発生件数も増加したので,このように泣き寝入りせざるを得ない被害者を適切に救済する仕組みを用意しておくべきだという考えから,自賠責保険制度が設けられました。

 自賠責保険があることによって,加害者に全く財産がない場合でも,最低限度の補償は自賠責保険から支払われることから,被害者としても完全な泣き寝入りはしなくて済むようになっています。さらに,自賠責保険では,被害者の被った損害を100%まで補償してもらえないこともあることから,その不足部分を補うための任意保険を保険会社が売り出しています。

 翻って自転車事故について考えると,まず自転車に乗る人が誰しも必ず加入を義務づけられている強制保険制度は現在存在しません。したがって,自動車事故の場合の自賠責保険のように,最低限度の補償は確保されている,とは残念ながら言えません。

最近は,保険会社が自転車事故をカバーする任意保険を多数売り出しておりますが,これに加入している人はまだまだ少ないと思われます。

結局,自転車事故の被害者になったとしても,加害者の方が何かしらの任意保険に加入しているという可能性は低く,保険がないのであれば後は加害者自身がどれだけ財産を持っているか否かで,あなたの損害賠償が現実に支払ってもらえるかどうかが決まるのです。そういう意味で,自転車事故は自動車事故よりも難しい側面があるのです。

 しかし,自転車であっても状況によっては被害者に大怪我を負わせてしまう可能性はあり,そうなると必然的に損害賠償額も高額になります。現に,裁判になった事例で,9,500万円超の損害賠償義務を命じられた判決もあります(神戸地裁判決平成25年7月4日)。このように,大きな被害を受けたのに,金銭的な補償が全然受けられないという悲惨な結果を回避するには,早期に弁護士に相談することをお勧めします。

 最後に,自転車を運転していた直接の加害者は,全然財産がない人でこの人からは損害賠償を支払ってもらうことはできないという場合でも,すぐに諦めるのではなくて,他の手段が使える可能性もあります。例えば,直接の加害者が,その自転車事故発生の際は勤務時間で業務遂行中だった(例えば荷物の配達中など)という事実があれば,その業務を命じていた会社にも損害賠償責任が発生する可能性があります。他にも,直接の加害者が未成年の子ども又は高齢のお年寄りだったという事実があれば,その子ども又はお年寄りを監督すべき保護者的立場の人にも損害賠償責任が発生する可能性があります。

 そのように,法律上直接の加害者以外にも損害賠償責任が発生し,そこからいくらかでも損害賠償を支払ってもらえることもあり得ますので,自転車による交通事故の被害に遭った方は,お気軽に当事務所までご相談ください。